近視進行抑制治療
1.近視とは
近視とは、実生活において、裸眼で「近くは見えるが遠くが見えづらい」と表現される状態です。
近視の度数は、ジオプトリ―(D)という単位で表現されます。
目安にはなりますが、以下の度数で近視の程度を分けています。
光学的な定義は、以下のようになります。
| ① 平行光線が無調節状態の眼に入ったとき、網膜の前方に像を結ぶ状態 | |
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② 眼の前の有限距離にある点から発散する光線が、網膜上に結像する屈折状態 |
近視の多くは、何らかの原因によって眼軸(眼球の長さ)が前後に伸びてしまう「軸性近視(じくせいきんし)」によるものと考えられています。
参天製薬株式会社 子どもの近視情報WEBより引用
2.近視の疫学
現在、日本において、裸眼視力1.0未満の子どもの割合が、増加しています。学校保健統計調査によると、小学生の約4割、中学生の約6割、高校生の約7割が裸眼視力1.0未満と報告されています。
また、眼合併症を起こしやすい高度の近視(眼軸長26.5mm以上)の頻度も増加しているという報告※1もあります。
世界的には、近視(≦-0.5D)人口の比率は、2000年には22.9%であったが、2050年には49.8%(約50億人)に増加することが予想※2されており、年々近視に対する注目が高まっています。
令和5年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)
参天製薬株式会社 子どもの近視情報WEBより引用
参考文献
※1 Ueda E, et al: Invest Opthal Vis Sci.2019; 60:2781-2786.
※2 Holden BA, et al. Ophthalmology. 2016; 123(5): 1036-1042.
3.近視発症の原因
近視の多くは、眼球が前後に伸びることで起こります(軸性近視)。眼球は体が成長する時期に伸びることが多く、低年齢の頃に早く伸びる可能性があります。
近視の発症は、遺伝的要因と環境要因の両方が関与すると考えられています。
遺伝要素については、父親と母親のどちらかが近視の場合、子どもが近視になる可能性は比較的高く、両親が近視の場合はさらに近視になりやすいといわれています。(両親とも近視である場合、その子供は7~8倍近視になるリスクが高まります。)
環境要因については、従来から近業が原因の一つと考えられており、最近は屋外活動時間の減少やスマートフォンの長時間の使用も問題視されています。
4.近視進行抑制治療の意義
近視が進行すると、裸眼視力が低下するだけでなく、強度近視による合併症(近視性黄斑症、開放隅角緑内障、白内障、網膜剝離)にかかりやすくなります。近視の程度が強いほど、これらの合併症との関連性が強くなることが報告されています※3
SE:等価球面度数
オッズ比(95%信頼区間):ある因子が病気の発症に関連する程度のこと。数字が大きいほど関連性が強い。
ただし、オッズ比はその因子が何倍病気になりやすいという意味ではありません。
参天製薬株式会社 子どもの近視情報WEBより引用
一度伸長してしまった眼の長さ(眼軸)は元に戻すことができず、また、先述の通り、弱めの近視であっても、眼合併症の発症リスクが高まることが明らかになっています。
ある報告では、近視の進行を33%抑制すれば、強度近視(-6D以上)の有病率を73%減少させ、また、50%抑制すれば、同有病率を90%減少させるとの結果※4があり、著しい近視進行を示す小児期において近視進行抑制治療を開始する根拠の一つと考えられます。
参考文献
※3 Haarman AEG, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2020; 61(4):49.
※4 Brennan NA. Cont. Lens Anterior Eye. 2012; 35: e14–e15.
5.実際の近視進行抑制治療
近視進行抑制治療は複数存在しますが、そのうちいくつかを紹介します。
① 日常生活様式の改善
② 低濃度アトロピン点眼液
③ 多焦点ソフトコンタクトレンズ
④ 特殊眼鏡
⑤ サプリメント
※当院では、オルソケラトロジーの取り扱いはしていないため、説明を省略します。
なお、あくまで近視進行抑制治療であるため、日常生活において、よく見えるためには、眼鏡やコンタクトレンズが必要です。お子様の近視の進行を出来る限り抑制し、将来強度近視にならないように複数の近視抑制治療を併用することをおすすめします。
① 日常生活様式の改善
近視の進行抑制には、低濃度アトロピン点眼や、多焦点ソフトコンタクトレンズの装用だけでなく、日常生活様式の改善も大切になります。
なかには、近視進行を抑制できることが明らかになっているものもあり、点眼、コンタクトレンズとの併用が薦められます。
1.1日2時間以上の屋外活動をする
太陽光に含まれるバイオレットライトが近視を抑制している可能性が示唆されています。
屋外で過ごす時間が長いと、近視の発症リスクが減少することが複数の研究で明らかにされ、1日2時間以上(週14時間以上)の屋外活動が薦められます。明るさに関しては、1,000ルクス以上の照度が推奨されています。木陰や曇りの天気においても10,000ルクスは確保できるため、直射日光に身をさらす必要はありません。むしろ真夏の炎天下では、熱中症や紫外線による障害が懸念されますため、比較的涼しい朝方や夕方に屋外活動をしても構いません。
2.背すじを伸ばした状態で、30㎝以上の視距離をとる
近視は、近くのものをみる際、調節が十分に行われず、網膜上に遠視性のぼけが生じたり(調節ラグ)、軸外(周辺部網膜)に遠視性のぼけが生じたり(軸外収差)することで、進行してしまうと考えられています。また、より近いものを見ようとするとき、その分多くの輻輳(寄り目)、調節が必要になり、目への負担が増してしまうため、なるべく視距離を確保することが重要です。視距離については、少なくとも 30cm 以上離して作業すること、30 分に一度は遠くを見て連続させないこと(休憩をはさむこと)が重要です。日本眼科医会では30-30-20ルール(画面から30cm以上離して、30分に一回は、20秒以上遠くをみて目を休ませよう)を推奨しています。
3. 明るい部屋で読書をする
眼精疲労の観点からも、明るい環境での読書が薦められます。
② 低濃度アトロピン点眼液
世界で最も広く行われている治療です。今までは、シンガポールから個人輸入されたマイオピン点眼や、1%のアトロピン点眼(通常の濃度)を希釈して0.01%~0.05%にしたものが、厚生労働省の認可外の状態で使用されていました。しかし、2025年4月21日に、日本の参天製薬株式会社が、近視進行抑制を目的とした点眼剤「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」(有効成分:アトロピン硫酸塩水和物)を発売し、正式に、日本国内で厚生労働省が認可した薬剤として使用可能となりました。
リジュセア®ミニ点眼液0.025%は、アトロピン硫酸塩水和物を0.025%含有する点眼剤であり、目の長さを伸ばす原因となる「ムスカリン受容体」という部分に働きかけます。様々な作用機序が考えられていますが、結果として、眼軸長の伸びを抑えることで、近視の進行を防ぐ効果が期待されています。
LAMPスタディという海外の研究では、リジュセア®ミニ点眼液と同じ濃度である0.025%の低濃度アトロピン点眼を用いて、プラセボ群と1年間比較した結果、プラセボ群よりも、屈折値で43%、眼軸長では29%の近視進行抑制効果を認めたとされています。
対象となる方(当院における基準です)
・年齢:5歳以上かつ18歳以下
・屈折状態:等価球面度数が-0.5Dもしくはそれを超える近視(軽度~中等度の近視)の方
・近視以外の視力に影響する病気がない方
・治療プログラムに従った通院・定期検査が可能な方
・毎日点眼を遵守できる方
・医師により適応と判断された方
用法・用量
・通常、1回1滴 、1日1回就寝前に点眼(点眼後に瞳が大きくなるため、朝早くから行動する場合は早めに点眼することお勧めします。)
価格
・4,380円(税込)(30本分/1か月分)
・13,140円(税込)(90本分/3か月分)
| 治療スケジュール | 検査項目 | 費用(税込) |
| 初回 | 視力・屈折・調節麻痺検査・眼軸長 |
診察・検査費用5,500円 点眼薬費用4,380円(1か月分) |
| 2回目 (初回から1ヶ月後) |
視力・屈折 |
診察・検査費用 3,300円 点眼薬費用13,140円(税込)(3か月分) |
| 3回目 (初回から4ヶ月後) |
視力・屈折 |
診察・検査費用 3,300円 点眼薬費用13,140円(税込)(3か月分) |
※3回目の治療以降は3ヶ月毎の定期的な通院が必要です。
診察・検査費用(3,300円または5,500円)及び点眼薬費用(3ヶ月分 税込13,140円)が必要となります。
半年に1回、初回検査と同様の検査(視力・屈折・調節麻痺検査・眼軸長)を施行します。
注意事項
・自由診療のため、治療開始は保険診療とは別日となります。
③ 多焦点ソフトコンタクトレンズ
多焦点ソフトコンタクトレンズは、一般的に遠用の球面度数に近用の加入度数が付加された老視矯正のための遠近両用ソフトコンタクトレンズとして知られています。世界的には、2017年にMiSight® 1 day (CooperVision社)がヨーロッパで初の近視進行抑制用として認可され、2020年にはアメリカFDAの承認も取得しています。その他、複数の多焦点ソフトコンタクトレンズも近視進行抑制用として海外では使用されています。
MiSight®1dayは、海外の報告では、装用開始から3年間で、単焦点1日使い捨てコンタクトレンズを装用した群と比較して、平均で屈折値は59%、眼軸長は52%抑制したとされ、高い近視進行抑制効果を示しています※5。
残念ながら、2025年9月現在、日本においては、MiSight® 1 day は、未承認医療機器のため入手することができません。2025年8月19日付のニュースで、MiSight® 1 dayが、厚生労働省の医療機器製造販売承認を取得したとの発表があり、今後近いうちに日本国内で正式に使用することができる可能性があります。
現状、日本において使用可能な視力矯正用の多焦点ソフトコンタクトレンズの中で、近視進行抑制効果も期待できるものは、以下になります。
1. SEED 1dayPure EDOF(Midタイプ)
近視進行抑制効果は、2年間の装用で単焦点ソフトコンタクトレンズと比較し、屈折値で32%、眼軸長で25%であったとの報告※6や、単焦点眼鏡を対象群とした2年間の前向き研究において、屈折値で45%、眼軸長で44%の抑制効果であったとの報告※7などがあります。
2. 2WEEK メニコンデュオ
当院では処方しておりませんので、説明を省略します。
3. Biofinity multifocal(+2.5D加入)
近視進行抑制効果は、単焦点ソフトコンタクトレンズを対象群とした3年間の前向き研究において、屈折値で45%、眼軸長で37%の抑制効果があったとの報告※8があります。この研究では、+1.50D加入群の近視進行抑制効果も検証されていますが、単焦点ソフトコンタクトレンズ群と比較し、有意な抑制効果は得られなかったとされています。高次収差が大きくなるほど(加入度数が大きくなるほど)、近視が進行しづらくなる※9とも言われておりますが、高加入度レンズでは、コントラスト感度は低下し見え方の質は落ちてしまいますので注意が必要です。
対象となる方(当院における基準です)
・年齢:原則、自身で脱着・管理ができると考えられる年齢が望ましい
・通院・定期検査が可能な方
・近視以外の視力に影響する病気がない方
・医師により適応と判断された方
注意事項
・ソフトコンタクトレンズは、眼鏡と違いスポーツや日常生活での利便性が高い反面、目に直接装着するため、装用練習や管理が必要になります。また、角膜の状態や装用状況の確認のため定期検査が必要になります。
参考文献
※5 Chamberlain P et al. Optom Vis Sci. 2019; 96(8):556-567.
※6 Sankaridurg P. et al. Ophthalmic Physiological Optics. 2019;39:294-307.
※7 Sergio Díaz Gómez, et al. Am J Ophthalmol. 2023;260:122-131.
※8 Walline JJ,et al:JAMA.2020;324:571-580.
※9 Hiraoka T, et al. Sci Rep. 2017;7(1):7876.
④ 特殊眼鏡(累進屈折力レンズ)
累進屈折力レンズ(PAL)は、一般的には中高年の老視矯正に使用されている遠近両用眼鏡のことですが、小児の近視進行抑制にも使用されます。
調節ラグ仮説に基づいてレンズ設計され、+1.5Dまたは+2.0Dの近見加入度数があり、調節必要量を減らすことが可能です。
過去の複数の研究結果から、近視進行抑制効果は強くなく、屈折値で11~33%程度の近視進行抑制率とされています。
当院では、Zeiss社の小児専用PALである、マイオキッズレンズを採用しています。このレンズは、累進屈折力レンズ(PAL)と網膜周辺部におけるぼけを抑制する特殊非球面レンズ(RRGレンズ)を組み合わせたPA-PAL(positively-aspherized PAL)と言われるレンズになります。近視進行抑制効果は、通常のPALと同等の20%程度と言われています。ご希望の方は、当院内での処方・作成になります。
⑤サプリメント
近視抑制遺伝子の発現を高める食品として、クロセチンが注目されています。クロセチンは、クチナシの果実やサフランに含まれる黄色の天然色素であるカロテノイドの一種です。強力な抗酸化作用があり、一般的なカロテノイドと比べて分子量が小さいことから吸収されやすいという特長があります。
日本の小学生を対象にした臨床試験において、24週間の観察において、クロセチン7.5mg摂取群は対象群と比べ、眼軸長の伸長が14%、屈折度数の低下が20%抑制されたとの報告があります※10。
ロート製薬からクロセチン含有量の違いで2種類発売されています。当院内では取り扱いはしておりませんため、薬局・インターネット等でご購入ください。
参考文献
※10 K. Mori, et al. J Clin Med. 2019; 8:1179.
